2025年の広告業界を読み解く:「Industry Pulse Report 日本版」から見えた3つの潮流
2025/04/22
寄稿記事
寄稿提供:Integral Ad Science Japan 株式会社
デジタル広告業界は今、新たなステージへの転換期にあります。IAS(Integral Ad Science)が毎年実施している「Industry Pulse Report 日本版」は、デジタル広告業界の最前線に立つ広告主・代理店・媒体社の専門家たちの意見をもとに、その年の課題とビジネスチャンスを可視化する調査です。2025年版でも、調査に参加した216名の日本の専門家たちの声から、特に注目すべきさまざまなトピックが浮き彫りになりました。
本記事では、このレポートから見えてきた、2025年に押さえておくべき3つの潮流をご紹介します。
1.デジタル動画の進化とアテンション経済の到来
2025年、日本のデジタル広告の専門家が最も注目するメディアは「デジタル動画」(51%)となりました。米国調査では最も優先するメディアに挙げられた「ソーシャルメディア」を上回り、日本ではCTVを含む動画プラットフォームおよび動画広告(ソーシャルメディア上の動画フォーマットも含む)がデジタルマーケティング施策の中核として確固たる地位を築いています。
日本のデジタル動画広告市場は、2025年に8,212億円、2027年には1兆円を超えると予測されています(出典:サイバーエージェント「動画広告市場の推計・予測」)。YouTubeだけでなく、TikTokやInstagramなど、多様なソーシャルメディアでの動画広告出稿が拡大し、今やデジタル動画フォーマットの多くをソーシャルメディア上の動画が占める状況となっています。これにより、今後ますます両環境の結びつきが深まり、より存在感と重要度が増すことが予想されます。それを裏付けるように、日本の優先メディアの第二位は「ソーシャルメディア」(42%)、第三位には「検索」(37%)が選ばれました。
また、デジタル動画広告のパフォーマンス評価で「アテンション計測」が急速に重要視され始めている点も注目に値します。日本の専門家の71%が、広告の“視聴”だけでなく“ユーザーの関心をどれだけ惹きつけたか”を示す「アテンション」を、キャンペーン評価の重要指標に挙げています。
IASでは、アイトラッキングデータ(視線追跡技術)とメディア指標を機械学習で統合し、広告インプレッションの「ビジネス成果への繋がりやすさ」をスコアで数値化しています。これまでの調査では、アテンションが高い広告インプレッションほど、コンバージョンやブランド認知などのビジネス成果に好影響をもたらすことが明らかになっています。
アテンションの重要性は米国でも同様で、2023年8月に行ったIASの調査では、88%のマーケターが既にアテンション計測を導入済みでした。今後、日本でも「アテンション」がデジタル広告キャンペーンの改善と成果向上に欠かせない指標として、さらに重要な役割を果たすことになると予想されます。
2. AIがもたらす脅威とメディア品質への影響
ポジティブな活用が注目される一方、生成AI(Generative AI)は広告業界にも重大なリスクをもたらしています。
eMarketerによると、2026年までにデジタル環境で展開される情報の90%が生成AIによって生成されると予測されています。今回の調査でも、日本のメディア専門家の58%が「生成AIによりMFA(Made for Advertising)サイトの量産が加速しており、対策が急務である」と回答しています。
MFAサイトは見かけのパフォーマンスは高い反面、実際は低品質なコンテンツで構成され、広告費の浪費やブランド毀損の危険を孕んでいます。加えて、生成AIによるユーザー情報の偽装やインプレッションおよびクリックの偽装など、日々巧妙化する詐欺の手口にも懸念が高まっています。業界では、AIが生む脅威に対策を打つためのAIソリューションも導入されており、AIを使ってMFAサイトや低品質なコンテンツを識別・排除し、広告配信面の品質と信頼性を担保することが行われています。
詐欺の手法は日々巧妙化しています。IASのアドフラウド専門機関「IAS Threat Lab(スレットラボ)」では、日々生まれる、デジタル広告を脅かす最新の詐欺手法を常時監視し、業界のパートナーと連携して、その抑制に取り組んでいます。最近では、2024年の初頭から稼働し、偽のAndroidアプリを悪用して合計5,600万回のアプリダウンロードを発生させ、1日2億件の広告入札リクエストを生成、収益化していた組織的な詐欺スキーム「Vapor(ベイパー)」を特定。Googleと連携して、この詐欺スキームの撲滅に成功しました。この詐欺スキームの裏にも、開発プロセスを加速するためにAIが使用された可能性があるとみられています。
3.ブランドセーフティから「ブランドスータビリティ」へ
2025年のもう一つの重要なキーワードは「ブランドスータビリティ(適合性)」です。これは、広告が安全な場所に表示されるだけでなく、ブランドの価値観にあった文脈およびコンテンツに表示されることを指す考え方です。
今回の調査では、2025年に専門家が最も重視するメディア品質戦略に「ブランドスータビリティ」(55%)が選ばれました。これは、業界の意識が“安全性”中心のブランドセーフティ戦略から、より文脈に即した“適合性”重視のアプローチへと進化していることを示唆しています。
従来の「ブランドセーフティ」は、暴力や差別、違法コンテンツなど、誰もが避けたいリスクの回避が主目的でしたが、「ブランドスータビリティ」はそれに加えて、“自社ブランドにとってふさわしい文脈”を重視します。例えば、同じニュース記事でも、ブランドによって「適している」「避けるべき」の基準と判断は異なります。あるニュース記事があるブランドには価値ある掲載面であり、別のブランドにとっては避けるべき掲載面になるということです。
単にリスクを回避するだけではなく、安全性と適合性の両方を確保することが、ブランドの価値観や文脈にふさわしい環境で、適切な消費者へのリーチするための重要な土台となります。今後は、ブランドごとのスータビリティ基準に基づいた精緻な広告ターゲティングや回避設定を通じて配信をより高度に管理する「ブランドスータビリティ」戦略が、適切な消費者とのエンゲージメントを促進し、ROI最大化を実現するカギとなるでしょう。
最後に:未来を見据えた広告戦略を
2025年のデジタル広告業界は、「デジタル動画とアテンション」「生成AIリスクへの備え」「ブランドスータビリティ」の3つの課題に直面し、その一方で3つのビジネスチャンスも拡がっています。これらの潮流を正しく理解し、実践に落とし込むことで、広告主・代理店・媒体のすべてが、より信頼性の高い広告環境を築けるはずです。
※参照:IAS 「Industry Pulse Report 2025 – 日本版」
(IASサイト【https://integralads.com/jp/】 でご確認ください。)
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